07.水を征するものは

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改めて調べてみると、屋根の不陸は柱の「沈み」に起因することがよく分かりました。
考えてみれば当然のことです。軸組構造の家は柱によってその荷重を支えていますから、一部の柱が傾いたり沈んだりすると、その部分だけが凹み、結果全体に歪みが生じるわけです。

また沈みの原因はシロアリだけではありません。礎石自体の沈みも複数見つかったのです。
昔の家では礎石(建物の土台となる石)は柱の真下にだけ置いてあるのがふつうです。これを独立基礎といいます。一方現在では布基礎、ベタ基礎といって住宅の床面全面をコンクリートで覆うのが一般的です。これは不同沈下(地面がいびつに沈下すること)への対策。逆に言えば、独立基礎は不同沈下に弱いのです。
さらに独立基礎の礎石には丸い石や平らでない石もよく使われています。そのためたった数ミリ沈んだりずれたりするだけで、柱が文字通り支えを失ってしまう場合があります。
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地面に石が沈む!? まるでミステリーみたい……
でも実は珍しいことではありません。「液状化現象」といえば地震等の振動によって地中の土砂と水が分離し、重い土砂が沈む(水は溢れ出す)現象ですが、これに似たことは地下水など水を豊富に含んだ地面ならいつでもどこでも起こり得ます。たとえ地震がなくても、地中の水分は日夜増減したりや流れたりしています。そのため非常にゆっくりとではあっても土砂も動きます。従って長い年月の間には、礎石が移動することもままあるのです。

わが古家の床下を見ても、礎石は頼りない丸い石が多く使われていました。また柱の底にレンガや木片を挟んだ箇所もありました。たぶん長く住まわれていたいつかの時点で、そういった修復を施したのでしょう。昔は家の足元が長年の間に覚束なくなることは周知のことで、適宜応急処置をするのが自然だったのかもしれません。さすがに最初に見たときにはギョッとしましたが……
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屋根の歪みは柱の狂い、柱の狂いは礎石の(即ち地面の)歪み、そして地面の歪みは大地が波打っている証!
一見硬く締まって見える地面も、地球規模の視点から眺めればまるで水面のようにゆらゆらとたゆたっているわけです。実際、後に水道工事やガス工事の職人さんたちは事も無げに言っていました。「この下をもう数メートル掘れば、地下水が川みたいにジャージャー流れてるよ」と。傷んだ柱の根元や傾いた礎石を眺めるうちに、いつしかぼくにもその「地中の川」の存在がはっきりと感じられるようになっていました。

シロアリにしても地中の水と無関係ではありません。湿った場所を好むからです。
水は家屋を根本から脅かす難敵である。実例を目の前にして、このことを痛感させられる日々でした。 しかし家と大地と水との関係を考え始めたら、またまた世界が新しく見えてきました。昔から良いとされる土地の条件、奈良に数多く残る寺院などの立地、それらも水の流れに視点をおいて眺めてみれば改めてハッと思い当たるのです。あ、なるほど、これが風水(つまり空気と水の流れ)ということか! ……こんな調子だから、肝心の工事はちっとも進まないのでありました。
(2007年8月)