13.石を動かしてみた

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わが古家のかつて縁側だった場所に、大きな石が鎮座しています。沓脱石です。丸い天然石の上面をすこし平らに削ってあります。縁側と外とを出入りする際にちょうどよい踏み段だったようですが、これが今となっては文字どおり「お荷物」なのです。縁側を含めた床をすべて解体し土間床に改造するにあたり、大きな障害となってしまうためです。

そもそも小さな長屋にしては立派すぎる大石です。どのくらいか? 大人が一人膝を抱えて横たわっているくらい、といえばいいでしょうか。重さにすると100kg、いや200kgはありそう。
動かすことは至難なのでずっと放置していましたが、まず下水道工事の際に移動を余儀なくされました。そのときは水道屋さんが、背丈ほどもあるバールを使って全身で抉じるようにしてなんとか動かしました。ただしやっとのことで50cmほど動かすのが精いっぱい。決して華奢ではない彼は、大汗を流し肩で息をしながら呟きました。
「オレも歳とったのかなぁ……」

そんな石を、一体どうすれば動かせる?
さらに最終的にどう処理するかという問題もあります。庭屋さんや石屋さんなら引き取ってくれるかもしれない、とも思いました。でも重機を入れられない路地裏の宿命で、頼めばとても高くつきそう。
ならば床下に埋めてしまえないか? しかし掘った穴まで動かさなければならないのは同じだし、万が一失敗すると取り返しのつかないことにもなりかねません。
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そうこうするうちに半年が過ぎ、他の作業も進んで、いよいよこの大石を動かさなければ次へ進めない段階にまで来てしまいました。ともかく、動かさねば。
まず駄目と分かっていても人間一度は試してみるものです。地面に膝をつき、その大人ぐらいの石と正面から向き合い、恐る恐る両手を広げ、抱えて……。いや、どう考えても無理。

水道屋さんに倣い、バールで抉るのも試してみました。ただし手元にあるのは水道屋さんの持っていたものの半分程度しかない、60cmくらいの小さなバールです。
半信半疑でしたが、石の下にしっかりバールを突っ込んでグイっと押し下げると、意外にもわずかに浮き上がった! テコというのは凄い威力です。
もっと太くて長い柄を差し込めば? しかし適当な道具が見当たらない。次の一手を出しあぐねつつ、石を浮かす動きを繰り返すうちに、そのわずかな隙間に板きれを差し込むことを思いつきました。片方の底にまず一枚、続いて反対側にもう一枚。これであの下敷きになったら死んでしまいかねないほどの大石が、板一枚分だけ地面から浮いた状態になりました。

そのときパッと閃いたのです。むかし教科書で見た挿絵、エジプトのピラミッドを造るために石を運ぶ人たちの……。そうだ、コロ!
一か八か、廃材の中から直径10cmほどの丸柱を見つけ、適当な長さに切ると3本のコロが出来ました。それを差し込むために、先ほどの動作を繰り返して石の下に挟み込む板の枚数を増やしていき、コロの径にまで石を浮かせます。そしてコロを入れて慎重に支えの板を抜くと……。オオオ!! 思わず、感動の雄叫び。それまでビクともしなかった巨石が、ほとんど抵抗もなくスーッと滑ったのです。
石が動く、たったそれだけのことですが、それは全身に勝利と歓喜の熱が駆け巡った瞬間でした。
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こうして沓踏石は、邪魔にならない庭の隅に無事収まりました。記念のコロも、まだ捨てずに取ってあります。
それにしても凄いのは古代人の知恵。テコとコロの原理は間違いなく人類史上の大発明ベスト10に入る、と確信する今日この頃なのであります。
(2008年2月)