17.年月が作り出すもの

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古い家の床や柱って、えもいわれぬ風合いを醸し出していませんか?
そう、よく「黒光り」とか表現されるアレ。

木材の色は年月とともに変化します。
……と知ったようなことを言っていますが、今回の工事を経験するまであまり実感したことはありませんでした。黒光りした柱を見ても、多少の経年変化はあるにせよ、最初から濃い色の木材なのだと漠然と思っていたのです。
ところが表面をすこし削ってみると、中から出てくるのは真新しい木の色! そんなの常識? でもそれを実際にこの目で見た瞬間には、純粋に驚いたのです。木材の内部がまったくといっていいほど鮮度を失っていないことに、ちょっと感動さえ覚えました。表面がボロボロに腐ったような木でさえも、切ればやはり若々しい断面が現れるのです。

木材表面が褐色に変化することを「日焼け」ともいいますが、必ずしも陽に当たるせいだけではないようです。
我が古家でも数十年間真っ暗闇だったはずの天井裏でさえ、材はすっかり飴色でした。前述の通りどんなに古い木でも切った断面は限りなく生木に近い色をしていますから、つまり褐色への変化は空気に触れることによって起こると考えられます。
そこでふと連想するのがウイスキー。蒸留によって抽出されたばかりのスピリッツ(原酒)はほぼ無色透明なのに、樽の中で寝かされるうちにあの琥珀のような魅惑の褐色へと自然に変化するのです。いずれも年月を経て「深みを増す」ところが似ていませんか?
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他にも年月を経た木材は面白い変化を見せてくれます。
例えば直射日光の当たる南側の柱は、木目に沿って波打つように凸凹しています。日射による温度変化や紫外線の影響で、年輪と年輪の間の柔らかい部分がより著しく風化した結果でしょう。玄関の引戸などにも同様に木目が浮き出た箇所があり、陽の当たる箇所と影に隠れる箇所とで風化の度合いがちがうため、まるで太陽の運行が刻み付けられたようになっています。これなどは人工的に作るのは至難と思える造形美です。手で触ると何ともいえない感触があります。
また板塀や板壁の下の方、地面に近いところは、雨が掛かったりして水が滲みやすいせいか、白っぽく退色しているのもよく見かけます。ためしにたわしで擦ってみると、こちらも木目が浮き出して面白い表情を見せてくれます。

木材だけではありません。錆びた鉄もくすんだ瓦も、苔むした庭先のブロック塀も、独特の佇まいを有しています。ひとまずたわしで擦ってみると意外な趣が出て、もったいないのでそのままに……という箇所がいくつもありました。何といってもこれらの味わいを人工的に作ることはほぼ不可能と思える点で、古い材料は捨て難いのです。
一方新しい建材を使う場合には、それが数十年後に果たして美しく古びてくれるかどうかが気になります。機能的かつ経済的な建材は非常に使いやすい反面、いつまでも古びないとか、まっとうに朽ちてゆかないのではといった懸念を抱くようになりました。どこか不自然じゃないかと。
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必ずしもエコ意識が高いわけではありません。上手に使い分ければいいのでは、とも思います。そこの線引きは難しいのですが、とりあえずはじまりと終わりがきちんと見えるものほどより信頼できる、ということなのでしょうか。 (2008年6月)