26.命名

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ニンゲンの集中力って一定時間以上は持続できないものだと思うのですが、目標の達成が近付くにつれその持続力が増すようなこと、ないですか?
もうちょっとだ、あと少しだと思えば、気力を振り絞ってさらにもう一段奮起することができます。自分の場合も昨年後半あたりからずっとそんな状態でした。ただ自分の前進と同時にゴールもひょいっ、ひょいっと意地悪く遠ざかっているようでもあり……。単に見通しが甘いといえばそれまでなんですが。

さて、オープンするにあたって必要不可欠なのが店名。重要ですし、自分の店ともなれば我が子に命名するが如くアレコレ悩むものです。たかが名前、されど名前。「命名」の文字どおり生命を吹き込む瞬間だと考えると、気負わないわけにもいきません。

みなさんどうなのか分かりませんが、お店をやろうと決めた時点で、まず名前を思い浮かべてみるものではないでしょうか。場所が決まるよりも、それどころか何の店かが決まるよりも前に。とにかく考えるだけでも楽しいものです。
かっこいいの、お洒落なの、馴染みやすいの、かわいいの、素朴なの……。いろんな方向性がありますよね。周りを見渡してみると、店主の考えや夢を反映させたと思われるもの、場所に由来するもの、語呂や音がいいもの、意味不明だけどインパクトがあるものなど、意識してみるとそれぞれ個性的でなかなか味わいがあります。大なり小なり名前には物語があるのでしょう。
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個人的には、気負いのない名前というのにもけっこう惹かれます。
例えばお昼にしょっちゅう行く食堂だけど、そういえばあそこ何て名前だっけ? 名前なんてあったっけ? と思いながらそこへ向かい、改めて軒の庇を見たらほとんど読めなくなった薄い字で「大和食堂」とか書いてあって「ああ、これか!」みたいな。

思い起こせばかつての勤め人時代、よく社屋を出てすぐの居酒屋でランチを食べていました。今でもサンマを食べると、ここのサンマ定食を思い出します。ふだんはフライの日替わり定食を食べるのですが、たまの贅沢がサンマ定食。カウンターの奥で忙しそうにフライを揚げているおばさんが、時々遠赤グリルの上のサンマを引っくり返すのを、待ち遠しくも優越した気分で眺めていました。
そこもだいぶ通い詰めた後になって、「ニュー浅草」という店名を知ったのでした。
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ところで弊店の名前は「絵本とコーヒーのパビリオン」です。ご存知でしたか?
まだ工事を始めたばかりのころから、いろいろ悩んでノートにもいっぱい案を書き出してみました。でも結局その中にはいいのがなく。
しばらく放置していたのですが、あるときふと、先行するネット古書店「パビリオンブックス」の実店舗でもあるのに名前が全然ちがってたら変だ! ということに気づき、その瞬間アッサリと決めてしまいました。
正直、喫茶店の名前っぽくないかな? とも思います。名は体を表すという意味では、イメージしにくい名前かもしれません。でも逆に、年月を経て名前にイメージが付いてくるまで頑張ろう、と決意しました。

それにしても店舗完成が延びに延びて、名前だけがずいぶん前から晒されているのも考えてみれば可愛そうなものです。もうすぐ追い付くからね、待っててチョーダイ。
(2009年3月)